デジモンアドベンチャー02第13話感想

デジモンアドベンチャー02第13話「ダゴモンの呼び声」感想

脚本:小中千昭 演出:角銅博之 作画監督:海老沢幸男 美術:清水哲弘 <2000.6.25.放映>

暗い世界。霧に覆われ、海も空も黒く、灯台の光さえ黒色だ。そして海に、巨大で不気味なタコのような化け物が現われる。02で唯一、小中氏の脚本で、ヒカリが暗黒の海へ引き込まれるホラーな異色の回。

タイトルコールはヒカリ。海に浮かぶデジモン文字は「フングルイ・ムグルウナフ・クトゥルフ・ルルイエ・ウガフナグル・フタグン」。そして巨大な化け物のシルエット。

●クトゥルフ神話:20世紀にアメリカで捜索された架空の神話。怪奇小説・幻想小説の先駆者の一人であるH.P.ラヴクラフトらの書いた一連の小説が「クトゥルフ神話」として体系化されたという。共通のテーマは、太古の地球を支配していたが、現在は地上から姿を消している強大な力を持つ異形の者どもが、現在に蘇ること。そのキャラの中でも有名なのは、太平洋の底で眠っているというタコやイカに似た頭部を持つ軟体動物が巨大化したような「クトゥルフ」。上記「フングルイ…」は神話の詠唱呪文らしい。訳は「ルルイエの館にて死せるクトゥルフ 夢見るままに待ちいたり」。この記載は、地岡演出助手の仕込んだお遊びだというから、ますますわからない。詳細は調べたが難解で私の手に負えなかった。無印の時点でクトゥルフ路線にするのは決まっていたが、ダゴモン回を入れる隙がなく02に回されたという裏話が調べたら出てきた。ともかくも異色の回である。

●ダゴモン:水棲獣人型(または邪神型)の完全体。成長期はシャコモンかガサモン、成熟期はオクタモン、究極体はクティーラモン。名の由来はクトゥルフ神話の「古代ペリシテ人の伝説である海神ダゴン」と思われる。デジモンとは違う「深きもの」で、だからイービルスパイラルで操られきれなかった。ラヴクラフトの短編「ダゴン」に描かれるのがある種の人間のような生物について、参考までに引用すると「思い出すだけでも気が遠くなってしまう。ポオやブルワー=リットンの空想さえ遥かに超えるグロテスクさだった。水かきのついた手足、ぞっとするほど分厚くてたるんだ唇、突出するどんよりした目、そして思い出すのも不快な他の特徴。そんな姿をしているにもかかわらず、全体の輪郭はいまいましいほど人間に似ているのだった」。小中氏の趣味なのだろうか、この作家、私は気味悪くて好きになれない(ホラー系苦手) 。

登校中、ヒカリはタケルに声をかけられるが、これから起きる出来事を直感して不安なのか、太一の声と間違える。教室に入れないテイルモンは校門の木の上におり、最近ヒカリが何かを感じている気がするとパタモンに話す。

教室では、タケルもヒカリの様子が何となく気になっている。ヒカリの視界に霧が立ち込め、教室はなぜか黒い海でヒカリの足もとが海に浸かっている。タケルにはヒカリがノイズ映像に見え、思わず立ち上がってヒカリに声をかける。授業は社会科(平安時代と板書にある)のようだ。するとヒカリは気を失いそうになり、浜崎先生(遠近孝一さん)に保健室で休むよう言われる。心配そうに見送るタケル。

廊下へ出たヒカリは、水の滴る気配を感じ振り向くと、そこには恐ろしい化け物がいた。タケルは、授業が終わり保健室に駆けつけるが、ヒカリはいない。悪い予感が的中し、校内を探し回ると、ヒカリは外のベンチでうつむいて一人座っている。「私、海に行ったの。私、ここにいなくなってしまうかもしれない、誰かに呼ばれてる気がするの」「今度呼ばれたらそこへ行ってしまう気がする」。こういう時はお兄ちゃんがいつも守ってくれたと言うヒカリに、太一よりも頼りにしてほしいからかタケルは「いつまでもそんなこと言ってるからヒカリちゃんはだめなんだ」と言葉を荒げ、去ってしまう。普段は冷静なのに、抑えがきかないのは珍しい。帽子をかぶってないせい??

ヒカリは勝手に学校を出て、「海って・・」お台場海浜公園へ向かう(御台場小・現実の港南小は、実際に海の前にあります)。テイルモンは昼寝中で見逃しそうになり追うが、ヒカリの姿はノイズ化してそれきりランドセルを残して消えてしまう。

パソコン教室で京は、D-ターミナルのプロトコルを拡張しメールだけでなく直接通信できるよう作業している(難しいことできるのね~光子郎に聞いたのかな)。タケルが入ってくるが、元気がない。テイルモンが走ってきて、ヒカリが消えたことを告げる。

ヒカリは気が付くと、暗い海にいた。

大輔はゲートをくぐらずに向こうへ行けないと言うが、タケルはヒカリならそうでないかもしれないと言う。伊織は、ヒカリの居場所がわからないのにやたらにゲートを開いても迷うだけだという。タケル「デジタルワールドじゃない、海、そう、海だ」、海浜公園へと向かい大声でヒカリを呼ぶタケル。その声は異界のヒカリにも届いた。そこの標識にはデジモン文字で「インスマウス」(クトゥルー神話の架空の港町)と書いてある。ここはいったいどこなのか。

タケル「僕が探さなきゃいけないんだ」デジタルワールドでないどこかを。ヒカリにひどい事を云ったと自分を責めるタケルに、「ヒカリは弱い子じゃない。ヒカリは強い子、だけどそれは助け合う仲間がいるから」とテイルモンは伝える。

ヒカリが暗いトンネルに入っていく。「こんな怖いこと私しなくていいのに、どうして、私」。助けを求められると断れない優しさ。と、奥からうめき声が聞こえ、両生類のようなモンスターがたくさんいる。

大輔は、ヒカリを探そうとデジタルゲートを開けようとするが、開かない。(京と伊織が不在だが、よそを探しているのだろうか)

それは、イービルスパイラルをはめられたハンギョモン(植村喜八郎さん・完全体)だった。「わからない、我々が何者でありいつからここにいたのか」「ただ、深き所にいる神に仕えてきたのに、ある日突然これが我々から力を奪った。我々は神ではない神をあがめろという声がして」と。「選ばれた存在のあなたならこれをはずしてくれるはずだと」。恐怖と無能感から気を取り直しハンギョモンの腕に触れるヒカリ。すると触れたところが光り出す。ところが、トンネルが崩れてきたため、トンネルの外へ逃げ出すヒカリたち。その崩落はイービルリングをしたエアドラモン(新しい神の使い)のせいだった。ハンギョモンへ攻撃は続く。弱体化しているから、完全体なのにエアドラモンにやられてしまうのか。

●ハンギョモン:ダゴモンの仮の姿に過ぎなかった。CVは植村喜八郎さん。劇団青年座所属の俳優にして声優。特技はカンフーアクション、殺陣、という、特撮出演歴の豊富な方。

●浜崎先生:CVは遠近孝一さん。

●養護教諭:CVは徳光由香さんと思われる。

タケルは海に向かって大声でヒカリを呼ぶ。

ヒカリ「助けて、お兄ちゃん、テイルモン、…タケル君!」(この順番が絶妙v)タケルの事を想ったとき、ヒカリを呼ぶタケルたちと想いが通じ、タケルたちは異界へ飛び込む。テイルモン「想いが世界を繋ぐ!」。光と希望の紋章は近い関係にあり、引き合う力も強いのだろう。タケル、パタモン、テイルモンが着いたのは、テイルモンによると「普通のデジタルワールドじゃない」世界。ヒカリと再会し、ぺガスモンに進化しエアドラモンと戦う。

ぺガスモンに、ヒカリのD-3がなくてアーマー進化できないテイルモンが飛び乗り、力を奪うあの灯台を破壊するようタケルに指示する。灯台(実はダークタワー)の破壊に成功し、エンジェウーモンに進化し(デジヴァイスがないが、注ぐ光のおかげで?)、ヘブンズチャームでエアドラモンを倒す。エンジェウーモン(暗い世界で、とりわけ美しく見える)の聖なる力で、ハンギョモンたちのイービルスパイラルははずされる。

しかし、本当の姿に戻った、ハンギョモンではないモンスターはヒカリに掴みかかり、新しい神に対抗するために子孫を増やす花嫁としてヒカリを呼んだのだと言う。やっぱり、味方ではなかったんだ。エンジェウーモンに攻撃され引き下がるが、「選ばれし乙女よそして時を待つ」と不吉な言葉を言い残し深き所へ帰っていく。

疲れ切ったヒカリも、エンジェウーモンに抱かれタケル・ぺガスモンとともに現実世界へ帰っていく。やっと晴れ晴れと微笑みあう二人。 いろいろな存在を引き寄せてしまう体質のヒカリ、お疲れ様でした。

結局何の世界だったのだろう…巨大な化け物の不気味な姿で、この回は終わる。唯一小中氏が脚本を書いた、暗黒の根源について示唆を与える異色の回だった。また、タケヒカファンにとってうれしい回でもあった。

次回予告:次回のサブタイトルは「疾風(かぜ)のシュリモン」。

2025.11.   記

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